育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

種子骨炎と繫靱帯脚炎の相関(Plevinら 2016年)

調教前の1歳馬にみられる種子骨炎は、セリのレポジトリ検査でもよくみられる所見です。その種子骨炎があることで、1歳調教開始時点で繫靱帯脚部に低エコー像があるのか、そしてそれが調教をしていくと将来的にどれほど臨床的な繫靱帯脚炎を発症するのかについて調べた文献です。

 

サラブレッド種1歳馬での種子骨炎所見率は高いです。この研究では種子骨炎のグレード分類をG0-5で行い、G2以上を有意な種子骨炎と判断していました。繫靱帯脚部の低エコー像はG0-3で分類し、G2以上を有意な繫靱帯脚部の低エコー像と判断していました。種子骨炎所見を持つ馬では、調教が進むにつれて繫靱帯脚炎を発症するリスクは高く、予防措置を講じながら調教を続けることが重要です。

Association between sesamoiditis, subclinical ultrasonographic suspensory ligament branch change and subsequent clinical injury in yearling Thoroughbreds
S. Plevin J. McLellan T. O'Keeffe
EVJ 2016 Vol.48(5):543-7.

サラブレッド1歳馬における種子骨炎、無症状の繫靱帯脚部低エコー像およびその後の臨床的な損傷との関連

研究を実施した理由

サラブレッド1歳では種子骨炎はよく見られるX線所見である。これは繫靱帯脚炎と関連があり、競走成績に影響することが知られている。調教していない1歳サラブレッドにおける無症状の繫靱帯脚部の低エコー像はこれまでに調査されていない。種子骨炎、無症状の繫靱帯脚部の低エコー像およびその後の繫靱帯脚炎の関連がわかれば、より正確な繫靱帯脚炎の予後判定が可能になる。またそれにより繫靱帯脚炎を予防できるかもしれない。

目的

種子骨炎のある未調教のサラブレッド1歳では繫靱帯脚部の低エコー像がみられやすく、それらの所見を併せ持つ馬は調教すると臨床的な繫靱帯脚炎になりやすいという仮説を検証すること

研究デザイン

前向き、コホート、観察研究

方法

単一の調教場で1歳サラブレッドが調教を開始する時点で検査し、その後9ヵ月調査した。前肢の両側のX線検査および超音波検査をそれぞれの種子骨および繫靱帯脚部について行った。

結果

50頭を組み入れ、200か所の種子骨と繫靱帯脚部のペアを対象とした。種子骨炎と繫靱帯脚部の低エコー像には有意な相関(P<0.001)が存在した。種子骨炎の馬で繫靱帯脚部の低エコー像が併発するオッズ比は5.1であった。種子骨炎と繫靱帯脚部の低エコー像がある馬のその後の繫靱帯脚炎の発症は有意な相関があり、オッズ比11.7であった。

結論

 

種子骨炎を疑う馬では繫靱帯脚部の超音波検査の重要性が強調された。超音波検査により繫靱帯脚炎を発症する可能性を正確に予後判定できるし、臨床的な繫靱帯脚炎の介入および予防が可能となる。”