育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

種子骨炎は繋靭帯脚炎のリスク因子となるか(McLellanら 2014年)

1歳馬の種子骨炎の評価方法はいくつか報告されていますが、これらとの繋靭帯脚炎の発症の関連が示された論文を紹介します。Spike-Pierceらの分類でG3以上の種子骨炎では、繋靭帯脚炎発症のオッズ比は4.56となり、繋靭帯炎の発症リスク因子であることが示されました。
種子骨炎と繫靱帯脚炎の相関の記事で紹介した研究と同じグループによる発表で、こちらの方が少し古いですが頭数は多いです。

Do radiographic signs of sesamoiditis in yearling Thoroughbreds predispose the development of suspensory ligament branch injury?
McLellan J, Plevin S.
EVJ 2014 Vol.46(4):446-50.

"研究を実施した理由

種子骨炎は繋靭帯脚部の損傷に関連すると考えられており、1歳サラブレッド種にはよくみられるX線所見である。

目的

若齢の育成馬における繋靭帯脚炎の罹患率を明らかにすること。繋靭帯炎と種子骨炎の臨床症状の相関を回顧的に調査し、種子骨炎が繋靭帯脚炎のリスク因子となるか検証すること。

デザイン

回顧的症例対照研究

方法

291頭の臨床的に問題のない1歳のサラブレッド種馬の購買前X線検査画像を調査し、種子骨炎について3つの客観的なグレード分けを行った。初年度の調教を含む医療記録を調査し、繋靭帯脚炎の症例と発症のない対照群に分類した。調教中の繋靭帯炎発症と種子骨炎の相関について統計学的解析を行った。

結果

繋靭帯脚炎の罹患率は9.97%であった。繋靭帯脚炎の症例群と対照群で種子骨炎の所見率は同様であったが、症例群は対照群よりも種子骨炎が重度であった。種子骨炎と繋靭帯脚炎の有意な相関が認められたのは、3つ用いたうち1つのグレード分類のみであった。この分類を用いると、より明瞭な種子骨炎所見を認める馬は繋靭帯脚炎を5倍発症しやすかった。(オッズ比4.56、95%信頼区間:2.18-9.53、P<0.0001)

結論

種子骨炎のX線所見を評価して予後を判断する際にはグレード分類が重要であることがわかった。種子骨炎所見があれば調教開始後に繋靭帯脚炎を発症するリスクは5倍になると示された。臨床医はセリ時に臨床的に問題なくても、1歳馬の種子骨炎所見は将来的な繋靭帯脚炎の発症を予期するものだということに注意すべきだ。"

 


この研究で用いた種子骨炎の分類は3つあり、血管孔の有無による分類、Kaneらの分類、Spike-Pierceらの分類でした。それぞれ2,3,4段階で線状陰影(血管孔)を評価した方法です。これらのうち本研究から将来的な評価に有効であったのは、最も詳細な評価法であるSpike-Pierceらの分類でした。そして、これらをさらに改良した評価法が、レポジトリー検査ガイドにて紹介されています。セリでの購入を検討する際にはぜひ参考にしてください。

2020.05.20 追記
BTCニュースにて本論文が取り上げられておりますのでこちらよりご確認ください。

http://www.b-t-c.or.jp/btc_p300/btcn/btcn98/btcn098-03.pdf