ヒトでは、骨代謝マーカーが複数報告されており、骨疾患の診断にも用いられています。
骨代謝には、骨の形成にかかわるマーカーと、骨の吸収にかかわるマーカーがあります。
骨形成マーカーの例
BAP(骨型アルカリフォスファターゼ)
PINP(I型プロコラーゲン架橋N-プロペプチド)
PICP(I型プロコラーゲン架橋C-プロペプチド)
OC(オステオカルシン)
骨吸収マーカーの例
血清NTX(I 型コラーゲン架橋N-テロペプチド)
CTX(I型コラーゲン架橋C-テロペプチド)
TRACP5b(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ)
尿NTX(I型コラーゲン架橋N-テロペプチド)
CTX(I型コラーゲン架橋C-テロペプチド)
DPD(デオキシピリジノリン)
遊離型DPD
総DPD
骨代謝マーカーを用いた診断
たとえば骨粗鬆症であれば、骨形成よりも骨吸収が促進している状態となっています。したがって、骨吸収のマーカーが基準値より上回っているかどうかに基づいて診断します。*1
馬における骨代謝マーカー
今回紹介する文献では、先に挙げた骨マーカーのうち、骨形成マーカーのPICPおよびBALP、骨吸収マーカーのICTP(I型コラーゲンC末端テロペプチドのピリジノリン架橋)を測定しています。
文献でわかったこと
若い馬、特に1歳未満の馬においては骨代謝は非常に活発で、骨形成および骨吸収のマーカーは正比例していた。しかし、年齢を重ねることですべてのマーカーの濃度は減少した。
1歳と2歳では参照値の範囲が明らかに異なる。
所感
骨代謝マーカーが年齢とともに減少していくのは、活発な骨の成長が起きている骨端線(成長板)が閉鎖していくことに伴っている可能性があります。
ALPには、骨特異的なアイソザイムであるBALPと肝臓などに由来するALPがあります。このため、総ALPは他の代謝マーカーと連動が見られませんでした。ルーティンな検査で測定できるのは総ALPですが、これだけでは骨代謝の動態を把握するのは難しい可能性があります。
参考文献
整形外科的疾患のない、3ヵ月から20歳齢の60頭の馬の血清サンプルを用いて骨代謝の生化学的マーカーを解析した。ラジオイムノアッセイを用いて、骨形成マーカーであるPICPおよび骨吸収マーカーであるITCPの血清中濃度を測定した。もうひとつの骨形成マーカーであり、骨特異的なアルカリフォスファターゼ(BALP)の血清中濃度を WGA法を用いて測定した。また、総ALPも測定した。
血清中のPICPは、BALP(r=0.78、P<0.0001)とICTP(r=0.87、P<0.0001)と有意な相関関係が認められた。ICTP濃度はBALP(r=0.81、P<0.0001)とも相関関係が認められた。しかし、1歳以上の馬において、総ALPは、PICP、ICTPおよびBALPとの相関が認められなかった。すべての骨代謝マーカーは、年齢と負の相関が認められ、これは初めの2年で最も有意であった。
1歳未満の馬における参照範囲は、PICP1216-2666µg/L、ICTP13.8-26.7µg/L、BALP134-288U/L、総ALP223-498U/Lであった。
2歳馬における参照値は、PICP550-1472µg/L、ICTP7.96-22.8µg/L、BALP32.7-125U/L、総ALP134-238U/Lであった。