ヒトでは、骨代謝マーカーが複数報告されており、骨疾患の診断にも用いられています。
骨代謝には、骨の形成にかかわるマーカーと、骨の吸収にかかわるマーカーがあります。
骨形成マーカーの例
BAP(骨型アルカリフォスファターゼ)
PINP(I型プロコラーゲン架橋N-プロペプチド)
PICP(I型プロコラーゲン架橋C-プロペプチド)
OC(オステオカルシン)
骨吸収マーカーの例
血清NTX(I 型コラーゲン架橋N-テロペプチド)
CTX(I型コラーゲン架橋C-テロペプチド)
TRACP5b(酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ)
尿NTX(I型コラーゲン架橋N-テロペプチド)
CTX(I型コラーゲン架橋C-テロペプチド)
DPD(デオキシピリジノリン)
遊離型DPD
総DPD
骨代謝マーカーを用いた診断
たとえば骨粗鬆症であれば、骨形成よりも骨吸収が促進している状態となっています。したがって、骨吸収のマーカーが基準値より上回っているかどうかに基づいて診断します。*1
馬における骨代謝マーカー
今回紹介する文献では、先に挙げた骨マーカーのうち、骨形成マーカーのPICP、BALPおよびOC、骨吸収マーカーのICTP(I型コラーゲンC末端テロペプチドのピリジノリン架橋)、軟部組織ターンオーバーのマーカーを測定しています。
文献でわかったこと
骨代謝が非常に活発な成長期(0歳から18ヵ月齢)における馬の血清中マーカーの変動を明らかにしました。
これによると、0歳から18ヵ月齢となる間に、70-80%も濃度が低下することが示されました。
また、成長期における骨代謝マーカーの変動は、季節、年齢、体重に影響を受けていました。それぞれのマーカーは特異的な変動パターンをもち、月ごとに変化しています。
よって、その馬においてマーカーを1回測定しただけでは、骨代謝をモニタリングするための価値は低いことが示唆されました。
所感
体重増加と骨代謝マーカーの濃度低下が相関していることから、体が出来上がってくるとともに骨代謝活性は低くなっていくようです。
BAP(骨特異的ALP)の濃度に明らかな変動がなかったことが意外でした。やはりルーティンな血液検査で骨代謝を把握することは難しく、単回の検査では代謝活性をモニタリングできないようです。
参考文献
本研究は、24頭のサラブレッドの集団における、骨細胞活性の生化学的マーカーの血清中濃度について、誕生から18ヵ月齢にいたるまでの長期的な変動について記述するものである。骨形成のマーカーとして、PICP、BAP、OCを用いた。骨吸収のマーカーであるICTP、軟部組織のターンオーバーのマーカーである3型コラーゲンプロペプチドN末端(PNⅢP)についても測定した。
すべてのマーカーの濃度は、誕生時と18ヵ月齢では有意に低下した(70-80%)。この低下は、0ヵ月と6ヵ月の間で最も顕著であった。一方で、6ヵ月と14ヵ月の間では一過性の上昇がみられた。この上昇のタイミングは、それぞれのマーカーに特異的であった。ICTPとOCの濃度は、10月から12月の間で上昇した。PICP濃度は12月から4月の間で上昇した。一方でPⅢNP濃度の上昇は4月から6月の間で体重増加のピークと同時にみられた。BAP濃度の変化はこの期間では明らかではなかった。季節は、年齢と独立して、生化学的マーカーに有意な影響があることが示された。 すべてのマーカーは体重増加とともに濃度が低下し、どの月齢においても体重が重い馬ほど濃度が低かった。
これらの結果から、骨細胞活性および軟部組織ターンオーバーの生化学的マーカーは、成長期のサラブレッドにおいて、特徴的な変動パターンがあり、これは月齢、季節および体重に影響を受けることが示された。生化学的マーカーの参照値が月ごとに変動することが示された。したがって、成長期のサラブレッドにおいて、個体から1回採取しただけでは骨活性のモニタリングにおける価値は低い。