育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

反回喉頭神経症に対する声帯声嚢切除のみでの治療(Taylorら 2006年)

これまでに喉頭片麻痺(反回喉頭神経症)に対して、喉頭形成術と声帯または声嚢の切除を組み合わせた治療の成績を紹介してきました。

それでは喉頭形成術(いわゆるタイバックTie-back)を行わず、声帯声嚢切除のみを行った場合の治療成績はどうなのでしょうか。今回はその調査を行った文献について紹介します。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

”目的
 雑種馬において、反回喉頭神経症に対して声帯声嚢切除を行い、運動パフォーマンスや馬主の満足度に与える影響を評価すること。

研究デザイン
 回顧的研究

動物
 反回喉頭神経症による異常呼吸音の履歴がある成馬(92頭)

方法
 特発性の反回喉頭神経症に対して、片側声帯声嚢切除(うち63頭は両側)を行った症例を回顧的に調査。馬主または調教師には、術後少なくとも1年以上後に合併症や成績について聞き取り調査を行った。出走歴のあるサラブレッドではパフォーマンス指数を競走成績から得て調査した。

結果
 臨床症状は、運動時の異常呼吸音52%、プアパフォーマンス11%、異常音とプアパフォーマンスの両方が37%であった。術前の安静時披裂軟骨グレードの中央値はGⅢ.1であった。合併症に関しては、喉頭切開から1週間後に排液がなかった馬は62%、発咳は22%で認めた。異常音は66%で消失したが、キャンター時の異常音が9%、ギャロップ時の異常音が21%、異常音が不明な馬は4%であった。術後、93%の馬が完全な運動に復帰した。全体では馬主の86%が手術が有効であると判断し、3%は効果なし、11%はわからないと回答した。サラブレッドでは、競走パフォーマンス指数に明らかな改善効果がみられた(P=0.004)。

結論
 反回喉頭神経症のなかの限られた症例では、声帯声嚢切除が喉頭形成術に替わり有効である。声帯声嚢切除は運動パフォーマンスに良い影響があり、術後の合併症発生率は低く、馬主の満足度も高い。

臨床的関連性
 低いグレードの反回喉頭神経症に対する治療法として、片側の声帯声嚢切除が単独で有効と考えられる。”