育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の血小板減少症:1989-1994年の35例(Sellonら JVIM1996年)

 

はじめに

血小板とは

血小板は体内で1日当たり35,000/µL産生され、4-5日で破壊・回収されます。

血小板は、止血機構の主要な細胞です。しかしそれだけではなく、様々なメディエーターを産生することにより、炎症、っ芽根季、組織再生、さまざまな疾患の病態形成にもかかわっていることがわかってきています。

 

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血小板減少症

血小板減少症となる主な要因は、血小板の消費過多、血小板の産生低下、血小板の破壊です。

最も多い要因は血小板の消費過多と破壊で、これは原発となる全身性の疾患から二次的に発生することがほとんどです。壊死性または絞扼性の腸管疾患や腸炎、腫瘍、DICなどでも血小板が急激に消費されることで血液中の血小板数が減少します。

 

免疫介在性血小板減少症

まれに免疫介在性血小板減少症があることも知られています。本来、自己の細胞である血小板は免疫寛容のなかにあり、破壊されることはありません。しかし何らかのきっかけで血小板の抗原に対する抗体が産生される、血小板と結合したタンパク質に対する抗体が産生されるなどして、血小板が免疫細胞の攻撃対象として認識されてしまうことがあります。

   

文献でわかったこと

血小板減少症の症例

大学病院に来院した症例で、血小板数が75,000µL未満の馬を血小板減少症と判定した。

6年間で、血液検査(CBC)の検査記録が残っていた2346頭のうち35頭(1.49%)で血小板減少症が見られた。

 

血小板減少症と関連のある疾患

炎症性または感染性の疾患が多くを占めた。なかでも消化管疾患は15頭(結腸炎6頭、結腸捻転3頭)、感染性疾患では新生子の敗血症が4頭含まれていた。

 

予後

35頭中生存できたのは15頭で、そのほかは治療中に死亡または安楽死となった。

血清タンパク濃度の低下(<5.8g/dL)、PCVの上昇(>50%)、白血球数の増加(>11,000/µL)は、血小板減少症と関連のある臨床検査所見であった。

参考文献

Thrombocytopenia in horses: 35 cases (1989-1994)

D C Sellon 1, J Levine, E Millikin, K Palmer, C Grindem, P Covington

J Vet Intern Med. May-Jun 1996;10(3):127-32. doi: 10.1111/j.1939-1676.1996.tb02044.x.

要約

ノースカロライナ州立大獣医学部獣医教育病院に来院した3952頭の馬について、血小板減少症のリスク因子を明らかにするために調査した。2346頭は血液検査(CBC)の結果があり、このうち35頭(1.49%)で血小板減少症(<75,000/µL)がみられた。参照として、血小板数が正常(75,000-300,000/µL)な馬についても調べた。

スタンダードブレッド種は血小板減少症のリスクが高かったが、年齢や性別はリスク因子とは認められなかった。感染性または炎症性疾患のある馬は血小板減少症のリスクが高かった。多変量ロジスティック回帰解析により、臨床的・臨床病理学的要素と血小板減少症の関連を調査した。最終的な解析には、PCV上昇、桿状好中球数増加、白血球数増加、血清タンパク濃度低下が組み込まれた。成熟した好中球数の増加は、正常な血小板数と関連があった。血小板減少症の見られた馬は、正常な馬と比較して死亡または安楽死となる可能性が高かった。