育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

橈骨粗面の付着部損傷(Oikawaら 1998年)

馬の橈骨粗面は、橈骨背側近位に位置し、上腕二頭筋の橈骨頭が終止する部位です。

X線検査では、患肢を前に引っ張って保定し、外内方向に撮影することで評価できる像が得られます。

まれにではありますが、腱靱帯付着部にかかるテンションに耐えられず、障害が起こってしまうことがあります。X線検査では付着部骨増生や離断骨片といった像が得られることがあります。この臨床的評価は、実際にその部位に疼痛があるかが重要です。損傷が起きてから骨増生などX線検査で観察できる異常が現れるまで数週間を要すると考えられていて、急性期の評価や、アクティブな炎症があるかどうかは、診断麻酔もしくはシンチグラフィ検査が有効です。

 

治療は、ある程度(数週から数か月)の期間安静にして腱付着部の炎症を抑え、数か月のリハビリにより徐々に運動強度を上げていきます。成書には慢性的な跛行の症例では、跛行が持続することが多いと記述されています。

 

過去にJRA競走馬総合研究所から症例の報告がなされています。

この報告では、2頭の競走馬で発生した橈骨粗面の離断骨片を病理組織学的に分析しました。結果、この骨片は腱付着部症による骨増生が離断したのではなく、橈骨粗面における裂離骨折が原因だと判明しました。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 橈骨粗面に腱付着部症を認めた2頭のサラブレット競走馬について記述する。X線画像検査にて、橈骨粗面の前面に離断した骨片を認め、これは小児の疾患であるオスグッドシュラッター病*1に似た病変であった。オスグッドシュラッター病の病変は、脛骨粗面の隆起の一部が剥がれることで生じる病変である。しかし、症例馬では、離断した骨片は皮質骨組織で、層状骨に似た骨小体と骨梁を有し、橈骨粗面を構成する主要な構造物と似ていた。腱線維は前面の離断した骨片に付着し、橈骨粗面と離断した骨片の隙間は瘢痕組織で埋められていた。骨片は上腕二頭筋の腱付着部である橈骨粗面の骨組織における裂離骨折によって生じたもので、橈骨粗面は筋肉が収縮することで繰り返し強い牽引力がかかる部位である。

参考図書