育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

症状がある馬とない馬の胃内視鏡所見の比較(Murrayら1989)

 さまざまな年齢の馬を調査したところ、胃粘膜潰瘍の所見率と病変のグレードは、症状がある馬の方が高いことがあきらかとなりました。

レースに向けたトレーニングをしている馬とトレーニングしていない馬を比較すると、トレーニングしている馬の方が所見率と病変のグレードが高いことがあきらかとなりました。

トレーニングをしていて症状がある馬と、トレーニングをしていて症状がない馬を比較しても、症状があるほうが所見率と病変のグレードが高いことがあきらかとなりました。

しかし、胃酸分泌を担う腺部粘膜の潰瘍病変は、これらの症状やトレーニングとの関連は明らかにはなりませんでした。別の要因が病態形成に関わっているのかもしれません。

 

参考文献 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

1歳から24歳の馬187頭で胃内視鏡検査を行った。87頭のうまは臨床症状を示しており、内訳は7日以上慢性的で繰り返す疝痛(25頭)、直近7日間で1回以上の疝痛症状を示した(13頭)、急性の疝痛(10頭)、食欲減退(53頭)、ボディコンディション不良(40頭)、慢性的な下痢(9頭)であった。100頭は臨床症状はなかったが、胃内視鏡検査のサーベイのひとつとして検査した。胃の無腺部底部および大弯側のヒダ状縁に近い無腺部、腺部の底部および小弯側の無腺部粘膜をグレード分類した。グレードは0が病変なし、4が最も重度な病変とした。症状がない馬と比較して、症状がある馬において、無腺部の底部、ヒダ状縁近く、小弯側の粘膜は潰瘍スコアが有意に高かった(P<0.001)。病変があった馬の頭数は、症状があった馬(80/87)のほうが症状がなかった馬(57/100)より多かったからである。これらの馬で競走に向けたトレーニングをしていた馬は74頭であった。腺部粘膜の底部を除き、トレーニングをしている馬の方が、トレーニングをしていない馬と比較して、病変の所見率および潰瘍グレードが有意に高かった(P<0.01)。また、トレーニングを受けていて臨床症状がある馬(37頭)とトレーニングを受けていて症状がない馬(37頭)を比較しても、症状があるほうが所見率とグレードが高かった。