育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬胃潰瘍の治療における2つの用量の比較(Sykesら2014)

現在、馬胃潰瘍症候群に対する薬物治療の主軸を担うのは、胃酸分泌抑制効果を持つオメプラゾール(商品名ではガストロガードなど)です。

この薬剤による胃酸分泌抑制効果は、低用量でも確認されていて、予防的な効果を期待して低用量投与がなされることもあります。

 

今回紹介する文献では、その治療効果について、サラブレッド競走馬の臨床例に対する低用量と高用量のオメプラゾール投与による治療効果と、腺部と無腺部の治癒反応を比較した研究がなされています。

ここでは、G2/4以上の潰瘍の治癒にオメプラゾールを用いた場合、用量反応がみられることが示されました。臨床例の胃潰瘍を改善するためには、やはり治療量である4mg/kg投与が必要なのかもしれません。

さらに、無腺部潰瘍とは違い、腺部潰瘍はオメプラゾール投与による治療では十分に改善しないこともしめされました。これまでにも、腺部潰瘍の病態形成は無腺部とは異なる可能性が示されていて、それゆえ、腺部潰瘍の治療には異なる治療戦略が必要である可能性があります。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 オメプラゾールに関する研究では、経口投与で0.7mg/kgまでの低用量で胃酸合成を抑制する可能性があると報告されてきた。しかし、今日まで、馬胃潰瘍の臨床例において、用量による治療効果を比較した研究はない。さらに、酸分泌抑制治療による無腺部および腺部粘膜の治癒反応を比較した研究はない。

 

目的

 ①原発性の無腺部および腺部胃潰瘍の治療におけるオメプラゾールの2つの用量の効果を比較すること。

 ②原発性の無腺部および腺部胃潰瘍の酸分泌抑制治療による治癒反応を比較すること。

 

研究デザイン

 盲検化、ランダム化、用量反応、臨床試験

 

方法

 20頭のサラブレッド競走馬について、G2/4以上の腺部胃潰瘍を胃内視鏡検査で確認した。17頭はG2/4以上の無腺部胃潰瘍も認められた。ランダムに2群に振り分けた。2g(4.0mg/kg:高用量)または0.8g(1.6mg/kg:低用量)を1日1回経口投与する群に分けた。胃内視鏡による再検査は28-35日で行った。

 

結果

 期間と用量は、無腺部および腺部のどちらの潰瘍グレードにも有意な影響があった。筆者らの仮説は、「潰瘍の治癒や改善から判断すれば、低用量でも高用量と同様の効果がある(つまり劣らない)」であったが、これはデータ解析からは支持されなかった。無腺部潰瘍では、高用量投与で潰瘍グレードの改善はみられた(P=0.05)が、無腺部ではみられなかった(P=0.4)。改善した腺部潰瘍の割合は、無腺部潰瘍よりも低かった(P=0.02)。

 

結論

 本研究の結果から、無腺部および腺部潰瘍の治療において用量反応性が存在することが示唆された。腺部胃潰瘍の改善は、無腺部ほど完全にはみられず、現在の馬胃潰瘍症候群に対する治療指針は、腺部胃潰瘍には適切ではない可能性がある。