育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

慢性手根伸筋腱鞘炎15頭(Plattら1997)

手根部背側の腱構造は、内側から長第一指外転筋、橈側手根伸筋、総指伸筋、外側指伸筋と並んでいます。

多くは障害飛越競技馬で障害のトゲがこの腱鞘に貫通することで炎症が起きると報告されています。しかし、馬房内でも釘や木片が刺さると、貫通して感染が起きることもあり得ます。

感染をコントロールするため、抗菌薬の投与や、腱鞘内の洗浄が行われます。

腱鞘の慢性的な炎症が持続すると、腱鞘膜が肥厚し腱と癒着するだけでなく、隣接する橈骨や手根骨群に炎症が波及すると骨増生が起きます。疼痛だけでなく機械的に跛行することもあるようです。

治療は、肥厚し過形成した滑膜組織をできるだけ除去し、1次創閉鎖(肉芽が盛らない)を目指します。術後は10日を目途に抜糸し、少しずつ腕節を曲げ伸ばしする理学療法を併用しながら曳馬をします。30日程度かけて、腕節が完全に屈曲と伸展できるようにします。その後、制限した運動や放牧が可能となります。

 

*貫通した傷の場合は、どこに達しているかを慎重に評価し、必要と判断したら洗浄することが肝要です。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

慢性手根伸筋腱炎15例の経過、臨床的特徴、X線所見、治療および成績について報告する。最もおおくみられたのは障害飛越の競技馬で、トゲによる腱鞘の貫通が最も負い病因であった。治療法は、外科的な過形成した滑膜の切除および腱鞘内の癒着を剥離し、1次創閉鎖を行った。術後早期に理学療法を行うことは、有効な治療法であった。追跡期間中に全頭で跛行はなく、14頭はもとの運動パフォーマンスに復帰した。