プアパフォーマンス
馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。
まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。
骨格筋が原因の場合
その他の筋疾患として気を付けなければならないのはビタミンE欠乏性ミオパチーと運動ニューロン病です。これらは食事中のビタミンE欠乏を原因とする疾患です。ビタミンEは脂溶性ビタミンのひとつ(脂に溶けるのはこれD・A・K・E☆よ♡)です。
ビタミンEは強い抗酸化作用を有する微量元素で、運動時には要求量が増加します。天然のビタミンEは青草、穀類胚芽、植物油などに多く含まれており、非常に吸収性が高いことがわかっています。青草に含まれる天然のビタミンEであるαトコフェロールは不安定で、比較的はやく分解が進んでしまいます(乾草では収穫後1か月で50%失われるとされる*1)。したがって、乾草と穀類のみを給餌されていると不足しがちとなり、飼料添加物から供給しなければいけません。
この疾患では全身性の筋委縮や筋力低下がみられますが、ビタミンEを供給することにより症状が改善します。血中ビタミンE濃度の低値が見られない症例もあるため、この結果から除外診断することはできません。
参考文献
Katherine L. Ellis, Erin K. Contino, Yvette S. Nout-Lomas
Equine Vet Educ. 2022;00:1–17
その他の筋疾患
Ⅱ型多糖類蓄積性ミオパチー Ⅱ型PSSM
Ⅱ型PSSMは温血種やクォーターホースでより一般的にみられ、特にバレルレース、レイニング、カッティングの競技馬に多い。このタイプは、Ⅰ型PSSMにみられるGYS1遺伝子変異はもたないが、筋肉内に同様なグリコーゲンの蓄積がみられる。Ⅱ型PSSMの温血種では歩様異常がより多く見られるが、横紋筋融解症はⅠ型PSSMの方が多い。温血種において、臨床症状はわずかな跛行、騎乗時にまとまりがない、前に進もうとしない、またはトップラインの筋委縮が徐々に進行する。クォーターホースとは違い、Ⅱ型PSSMの温血種ではCKとASTの高値はほとんどない。Ⅱ型PSSMの科学的に妥当な遺伝子検査は存在しない。したがって、診断には半膜様筋の筋肉バイオプシーをしなければならない。
筋原線維性ミオパチー Myofibrillar Myopathy
筋原線維性ミオパチーは、比較的最近同定され、アラブや温血種に多いことがわかってきた。この異常では筋繊維(収縮タンパク質)の秩序だった配列が損なわれる。この疾患に対する科学的に妥当な遺伝子検査は現在のところなく、確定診断には半膜様筋のバイオプシーが必要となる。筋原線維性ミオパチーは若い馬では偽陰性が出る可能性がある。これは診断のためにデスミンの染色が行われるが、これは8歳未満の馬では不明瞭なためである。アラブ馬における臨床症状は、その他の労作性横紋筋融解症と同じである。しかし、温血種においては、筋原線維性ミオパチーによるパフォーマンス減退は8-10歳になるまではおこらない可能性がある。温血種に特異的な症状は、活動性の変化、Collectできない、前に進みたがらない、キャンターへの移行がおかしい、歩様の質の低下がある。筋肉痛や、わずかで跛行の原因部位がわからない後肢跛行がみられることもある。
ビタミンE欠乏性ミオパチー
ビタミンE不足は馬運動ニューロン病を引き起こすことがあるが、なかにはミオパチーを起こす馬もいる。全身性の筋委縮や虚弱が、運動ニューロン病と同じかよりわずかにみられる。診断は背側仙尾筋のバイオプシーにより行われ、運動ニューロン病との鑑別が可能である。発症馬において血清中ビタミンE濃度は正常であることもある。ビタミンE欠乏性ミオパチーの症例は、運動ニューロン病と比較してビタミンE供給に反応する。