育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

繫靱帯脚炎の超音波、CT、MRI、剖検所見(Elemmawyら2019)

競走馬の繫靱帯脚炎

種子骨炎に関連した繫靱帯脚炎は育成期から競走期にかけてよくみられます。

十分な休養と運動制限を組み合わせたリハビリを経ることで、良好な治療成績を得ることができます。また、近年では繫靱帯脚部辺縁損傷に対して、損傷部分をトリミングする手術も普及してきています。

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一方で、このような治療を経ても慢性化する靱帯炎はある程度存在します。慢性化する病態についてはまだ不明な点も多いのですが、今回の文献では慢性化に関連した所見が報告されています。

 

 

 

調査で分かったこと

エジプト、カイロ大学からのケースレポート。10歳のばん馬が外力による慢性的な繫靱帯脚炎を発症しました。この馬について超音波、CT、MRI検査を行い、続いて剖検で肉眼所見と照合しました。慢性的な繫靱帯脚炎は靱帯および腱の周囲に過剰な線維化と線維性癒着がおこり、機能障害と疼痛の原因となっていたことが推察されました。

この文献における症例馬は治療歴がなかったとのことで、靱帯炎発症後も運動を継続していたと思われます。慢性的な靱帯炎は周囲組織との癒着と剥離を繰り返し、組織障害を繰り返すことが主体なのかもしれません。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

要約

 繫靱帯脚炎は様々な年齢や用途の馬において頻繁に診断される問題である。8ヵ月間の慢性的な外傷性の繫靱帯脚炎を発症した10歳のばん馬について、超音波、CT、MRIの所見を報告した初めてのケースレポートである。症例はGrade3/5の左後肢跛行を呈し、飛節から蹄にかけてびまん性の腫脹と中程度の熱感および疼痛があった。超音波検査では、繫靱帯脚部は両側で腫大してエコー輝度は低下し、輪郭はぼやけていて、靱帯周囲にはエコー輝度のある物質が多く存在し、フィブリンの析出と一致した。CTでは骨の病変はないが繫靱帯脚部は腫大し密度は低く、不均一となり、靱帯と腱周囲の癒着および線維性癒着のなかにガスがトラップされた像がみられた。MRIでは繫靱帯の近位と体部では異常な信号強度はみられなかった。繫靱帯脚部では炎症による液体と靱帯周囲の線維性癒合から中~高信号がみられた。CTとMRIの所見は、剖検時に肉眼で確認できた。最後に、CTおよびMRIは慢性的な繫靱帯脚炎に関連した過剰な癒着を診断できる価値のある装置である。

 


 

 

 

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