育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

トウ状骨骨折の17症例(1982-1992)(Lillichら1995)

トウ状骨はトウ嚢とよばれる袋の中に存在し、蹄骨と深屈腱の間に位置しています。アクシデントによる外力や外傷によって骨折がおきることが知られています。

トウ状骨骨折が起きると、中程度から重度の跛行を呈しますが、身体検査では特異的な所見が得られることは多くありません。蹄の熱感、蹄叉の打診痛または鉗圧痛、指動脈の強勢などがみられることがあります。

 

この骨折に対しては、過去には保存療法が選択されることが多かったのですが、パフォーマンスを求められる馬についての治療成績は決して好ましいものではありませんでした。1995年の報告では、競走馬が元のレベルに競走復帰することは難しく、競馬場のHalter horseなど比較的運動負荷の低い用途に復帰することができたとされています。

 

 

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

1982年から1992年の期間にトウ状骨の骨折と診断した17症例のカルテを調査した。品種はスタンダードブレッド8頭、クォーターホース6頭、サラブレッド2頭、アラブ1頭であった。年齢は平均4.7歳であった。15頭は前肢、2頭は後肢に発症した。すべての馬で跛行が見られ、速歩での跛行はG3/5であった。全てX線検査で確定診断を下した。5頭は馬房内休養のみ、5頭は神経切断術、4頭は装蹄療法と馬房内休養、1頭は外固定と馬房内休養を選択し、残りの2頭は安楽死となった。装蹄療法と休養および外固定と休養を行った2頭のクォーターホースは、halter horseとして復帰した。休養のみを行ったスタンダードブレッド競走馬は2頭がレースに復帰したが、以前よりも低いレベルとなった。神経切断術を行った1頭は日常的な騎乗には使えていた。良好な治療成績を得るには長期の休養が重要かもしれない。一般的な飼われかたの馬のほうが、競技を求められる馬よりも用途に復帰できる予後は良いようである。