上腕骨骨折は、競走馬の前肢に発生する致命的な骨折のひとつです。骨の形状と負荷のかかり方から、斜骨折や螺旋骨折することが多く、整復が困難で、救うことができない状態となってしまいます。骨折した上腕骨には、疲労骨折やリモデリングの所見が見られることが知られており、X線やシンチグラフィ検査などを用いてのリスク評価が検討されてきています。
今回は、上腕骨の疲労性リモデリングの発生部位について調べた文献を紹介します。リモデリングは小さな変化であったり、ルーティンなX線検査では発見が困難な場合もあるため、どの部位に起きやすいか知っておくことは、診断するときに非常に重要なキーポイントになります。
”研究を実施した理由
サラブレッド競走馬の上腕骨リモデリングが起きる部位は、ダートコースと合成材コースでは違うのではないかと推察されてきた。目的
サラブレッド競走馬の上腕骨ストレス性リモデリングの部位が、ダートコースと合成材コースで運動している馬で異なるのか明らかにすること。ストレス性リモデリングの部位が違うことの意義を明らかにすること。上腕骨完全骨折を防ぐためのシンチグラフィ検査の有効性を明らかにすること。方法
2年間に3つの競馬場における841頭のサラブレッド競走馬の上腕骨のシンチグラフィ検査画像から、損傷の部位および重症度を評価した。コースによる損傷部位への影響は、χ二乗検定およびFischerの正確確率検定を用いて評価した。完全骨折した上腕骨については、それに関連したストレス性リモデリングの部位および重症度の評価を行った。データベースから、シンチグラフィ検査で上腕骨骨折と診断した競走馬、および上腕骨完全骨折を発症した馬でシンチグラフィ検査を受けたことがあった馬を抽出した。結果
合成材コースで運動していた馬は上腕骨遠位の損傷が多かった一方で、ダートコースで運動していた馬は近位尾側の損傷が多いという違いがみられた(P<0.001)。近位の損傷は、遠位の損傷よりも重度なものであった(P<0.001)。ほとんどの上腕骨完全骨折は近位尾側の損傷に関連していて、これは遠位の損傷よりも重度なものが多かった(P<0.002)。シンチグラフィ検査で損傷を診断した馬が完全骨折へと至った馬は1頭もおらず、また完全骨折となった馬でシンチグラフィ検査を受けたことがあった馬は1頭もいなかった。結論
競走のコースはシンチグラフィ検査における上腕骨の損傷部位に影響があり、したがってストレス性リモデリングの部位に影響していた。損傷の重症度は損傷部位と関連していた。上腕骨完全骨折は近位尾側のストレス性リモデリングに関連しており、シンチグラフィ検査を受けていない馬でおきていた。潜在的関連性
合成材コースで調教している馬は、ダートコースで調教している馬よりも上腕骨完全骨折のリスクは低いかもしれない。これはシンチグラフィ検査を行った馬でも同様と推察される。
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