育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

嚥下および鼻腔閉塞による披裂軟骨小角突起虚脱の誘発(Barakzaiら 2007年)

披裂軟骨の小角突起の変位は、運動時内視鏡検査で発見されました。これは運動時の吸気による陰圧が上昇することで引き起こされると考えられてきました。しかし、人工的に鼻腔を塞いで陰圧を高めたり、嚥下させたりすることによって、安静時でも再現することができたという文献がありますので紹介します。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”目的
 安静時に左右どちらかの披裂軟骨小角突起が対側よりも腹軸側に変位した所見について報告し、またそのうち1頭について、喉頭の形態学的特徴を記録すること。

研究デザイン
 回顧的研究

動物
 馬8頭

方法
 調査のため内視鏡検査を行ったクライズデール種7頭、プアパフォーマンスの原因調査のため検査したサラブレッド1頭が含まれた。クライズデール種の1頭は安楽死処分となり、喉頭を調査した。また4頭の正常馬の解剖体から喉頭を調査した。

結果
 左右の披裂軟骨の小角突起の腹軸側変位は、安静な呼吸時には認められなかったが、嚥下または鼻腔の閉塞により誘発された。クライズデール種における所見率は5.2%(7/133)であった。サラブレッド種の1頭は、高速トレッドミル内視鏡検査においても進行性の腹軸側変位がみられ、運動時の異常呼吸音を伴っていた。剖検から、症状のみられたクライズデール種の喉頭では、披裂軟骨横靭帯が過剰に太く(10mm)、左右の小角突起尖部を分離するのが容易であった。正常な喉頭では、反軸側方向にけん引しても尖部を分離することはできなかった。

臨床的関連性
 安静時の馬でこの所見が得られることの臨床的な意義は不明である。安静時に嚥下や鼻腔閉塞で誘発されたり、高速トレッドミル内視鏡検査で披裂軟骨の小角突起の腹軸側への変位が起きるのは、異常に太い披裂軟骨横靭帯が原因の可能性がある。”