育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

披裂軟骨小角突起尖部の虚脱(Dartら 2005年)

披裂軟骨の虚脱は、吸気時の陰圧によって全体的に虚脱・内転するパターンと、部分的に虚脱・内転するパターンがあるようです。運動時内視鏡検査を行っていると、ときどきこのような披裂軟骨の変化に遭遇することがあります。本日はこの部分的な虚脱について記述した文献を紹介します。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”目的
 馬の上気道機能不全の一因として、運動中に左披裂軟骨の小角突起が右披裂軟骨の小角突起よりも下に位置して気道を塞ぐという動的な虚脱があることを報告すること。

デザイン
 回顧的研究

動物
 プアパフォーマンスの既往歴と運動時の異常呼吸音が聴取された15頭の馬

方法
 1998-2003年に高速トレッドミル内視鏡検査による上気道の評価のため紹介来院した全ての馬の動画を調査した。ここから、左披裂軟骨の小角突起が気道内に動的な虚脱を起こした馬を記録した。病歴、年齢、性別、血統、馬の用途を調べた。

結果
 期間中に検査を行ったのは309頭で、このうち15頭(4.9%)に動的な左披裂軟骨の小角突起の動的虚脱が認められた。性別はメス3頭、オス13頭、年齢は2-5歳であった。5頭は左反回喉頭神経症の治療歴があり、うち2頭は神経筋移植、3頭は喉頭形成術を受けていた。15頭すべてで、左披裂軟骨の小角突起が右よりも腹側に位置し、声門裂の背側を塞いでいた。動画を見返してみると、左披裂軟骨の小角突起の虚脱は、左の披裂喉頭蓋ヒダおよび左声帯の進行性の虚脱に続いてみられた。左披裂軟骨の腹側部の外転の維持は全頭で確認された。2頭で右の声帯虚脱、1頭で咽頭口蓋弓の吻側変位RDPA、1頭で軟口蓋背側変位DDSPが観察された。

結論
 左披裂軟骨の小角突起が右よりも下に位置してしまう動的な虚脱は、馬の上気道機能不全の原因としては多くなく、その病因もわかっていない。筆者らは左の横披裂筋が左右の披裂軟骨を同じポジションで支持できないことが原因ではないかと疑っている。運動時に陰圧が高まると、この支持を受けられないために左披裂軟骨の小角突起が右よりも下がり、気道を塞ぐ。この疾患は、左反回喉頭神経の外転を司る部分の異常な神経変性の進行と関連しているかもしれない。また反回喉頭神経症のまれな症状の表れなのかもしれない。しかしこれらは推測に過ぎないので、原因追究のためにさらなる調査が必要である。

臨床的関連性
 左披裂軟骨の小角突起の動的な虚脱は、高速トレッドミル内視鏡検査でのみ診断可能である。これは上気道機能不全のまれな原因であるが、サラブレッドやスタンダードブレッドの競走能力に影響する可能性がある。”