運動時内視鏡検査は、近年普及してきている検査ではありますが、まだまだ国内での検査実績は多くありません。運動時にしかわからない動的な上部気道閉塞がいくつかあることはこれまでに紹介してきました。これらは基本的に運動時の異常呼吸音やプアパフォーマンスといった臨床症状を伴う馬を検査したものでした。
では症状がなく普通に調教している馬では、上部気道には問題はないのでしょうか。今回はひとつの調教場で通常調教を行っている最中に運動時内視鏡検査を実施し、そこで得られた所見についてまとめた文献を紹介します。
この論文が投稿されたのは2009年で、当時は動的内視鏡検査、オーバーグラウンド内視鏡検査が実際に行われ始めたころだったようです。この当時は実用化できるかをまず検討していたようですが、最近ではどういう条件で行えば診断価値があるのか、という詳細な検討もされ始めています。この文献で興味深いのは、やはり軟口蓋背側変位の多さです。ここでも、軟口蓋背側変位の存在により、走行できるスピードに影響があったとされています。したがって、異常音はしないけれど、調べてみたら軟口蓋背側変位がみつかって、それがパフォーマンスに影響していた、という状況もあるのでしょう。
やはり喉は沼です。
”研究を実施した理由
騎乗運動中に馬の上気道の画像を得ることは多くの利点がある。無線の内視鏡が開発され、実現可能となった。しかし、この手技がどうやったらうまくいくか詳細がわからないし、騎乗スピードによる所見の比較もできていない。目的
ひとつの平地競走馬の調教場からランダムに選んだ競走馬の一群の上気道の検査のため、動的内視鏡とGPSを組み合わせた方法を評価した。方法
ひとつの調教場からランダムに選んだサラブレッド競走馬を対象とした。すべての馬はオールウェザーコースでのギャロップ調教時に上気道の動的内視鏡検査を記録し、後で解析した。走行スピードはGPSで解析した。結果
調教している195頭のうち、67頭(34%)で検査を行った。所見は、正常44頭、軟口蓋背側変位13頭、喉頭不対称4頭、披裂喉頭蓋ヒダ軸側変位3頭であった。走行時の最高速度は41.8-56.3km/h(ハロンタイム17.2-12.8秒)。走行速度は軟口蓋背側変位による影響があった。結果
動的内視鏡検査は騎乗時にも安全で効果的な画像診断法であった。認められた上気道の異常は過去のトレッドミル内視鏡検査とも似ていた。上気道の異常による走行速度への影響はさらなる調査が必要である。潜在的関連性
この方法なら、通常調教時にもプアパフォーマンスの原因となる上気道異常の診断も可能となる。将来的な上気道疾患の臨床診断や治療に大いに役立つであろう。”