育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

喉頭蓋エントラップメントの経口軸側切開(Rossら 1993年)

喉頭エントラップメントは薄い膜で覆われて固く動かない、さらに潰瘍もみられない場合には保存療法が選択されることがあります。しかし主な治療法は、喉頭蓋軟骨を覆う披裂喉頭蓋ヒダを切除してしまう手術です。術式は複数報告されていますが、全身麻酔喉頭切開して行う方法は侵襲が大きく、近年では立位内視鏡下での手術が主流となっています。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

”要約
20頭の喉頭エントラップメント症例馬に対し、内視鏡ガイド下で経口でヒダ軸側切開を行った。症例馬の年齢は平均3歳(2-5)で、スタンダードブレッド18頭、サラブレッド2頭。スタンダードブレッドとメスが明らかに多かった。
16頭は術前に異常呼吸音を主訴に検査していたが、4頭は異常呼吸音は認めなかった。
内視鏡所見は、10頭で薄い組織によるエントラップメントで潰瘍は伴わなかった。6頭は薄い組織によるエントラップメントで、小さく部分的な肥厚と潰瘍を伴った。3頭は中程度に肥厚した組織によるエントラップメントで大きな潰瘍を伴った。1頭は分厚い組織で重度の潰瘍が見られた。
術後は消炎剤の投与と、馬房内休養とひき運動を7日間行った。全ての馬は術後7日で運動に復帰し、その後元のレベルの調教および競走に復帰した。
術後、喉頭エントラップメントの再発が2頭(10%)、軟口蓋背側変位DDSPが2頭(10%)でみられた。喉頭エントラップメントおよびDDSPと喉頭蓋の低形成所見との関連はないようにおもわれた。
この手技は、今のところ主流となっている手術法と同じくらい有効で、安全で、経済的な代替となり得る。厚く潰瘍を伴う組織によるエントラップメントの場合は、外科的切開が最良の治療法である。”