育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬におけるCOX-2選択的NSAIDsの使用に関する最新情報③(Zieglerら 2017年)

COX-2選択的薬剤は、ヒトや小動物領域ですでに広く使用されていて、馬用の製剤も多く発売されてきました。

抗炎症薬がCOX-2選択的であることのメリット、COX非選択的薬剤との比較、その使用に関する決まりについて2017年にまとめられたものがありますので紹介します。

全文はPubmedにて読むことができますので、リンクからご確認ください。

 

COXの詳細な生理学

・COX-1は常に発現していて体内臓器の恒常性維持にかかわり、COX-2は炎症時に多く誘導されサイトカイン産生を促進する。

・消化管ではCOX-1の発現レベルは低く、少ないプロスタグランジン類のみで足りるが、炎症により作られすぎると病的に過多な状態になり疼痛や潰瘍がおきる。

・腎臓ではCOX-2も常に発現しているため、COX-2選択的に抑制することで副作用がでる可能性がある。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

“COX-1とCOX-2の生理学

馬における疼痛および炎症の治療でCOX-2選択的NSAIDsの使用を考慮する際には、COXのアイソフォームによる生理学的、病態生理学的な違いを理解することが重要である。COXは少なくとも3つのアイソフォームがあることが知られているが、馬の組織で発現しているのはCOX-1とCOX-2で、馬におけるNSAIDs使用に関して最も関連があるのはこれらである。COX-1は常にほとんどすべての組織で発現していて、消化管の恒常性維持、凝固系、腎臓の恒常性維持など様々な生理学的機能にとって重要であると考えられている。対照的に、COX-2は生理学的状態では通常、ほとんどの組織で非常に低いレベルで発現しているが、炎症の前段階になると増加する。したがって、COX-1は体のためになるアイソフォームで、COX-2は疼痛や炎症と関連するという原則により、望まない副作用を減ずるためにCOX-2選択的NSAIDsの開発が進んできた。COX-1とCOX-2はどちらもプロスタグランジンH2を産生する。これは中間代謝物で、局所で代謝されることで、組織で合成されるトロンボキサンやプロスタグランジンなどの活性のあるプロスタノイドとなる。消化管や腎臓などの組織は、COX-1の発現がいつも低いレベルであり、それでも生理学的機能を維持するのに十分なプロスタグランジンH2を産生できている。炎症状態によりCOX-2が増加すると、プロスタグランジンH2の産生が増加し、プロスタグランジン類の量が病的になるため、疼痛、炎症、エンドトキセミアの臨床症状などとして現れる。しかし、COXのアイソフォームの特定の機能は全ての組織で必ずしも同じであるとは限らないことが重要である。たとえば、腎臓ではCOX-2もいつも発現していて、恒常性維持に重要な機能を果たしている。したがって、COX-2選択的NSAIDsは腎臓に対する副作用を持っている可能性がある。このことは、病歴を完全に把握し、臨床的な検査を行って、NSAIDsを処方する際に患者の選択を慎重に行う必要があることを強調している。”