育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

カリフォルニアの競走馬における肩甲骨骨折(Vallanceら 2011年)

肩甲骨の骨折は馬ではまれですが、粉砕骨折や整復・内固定の難しさから予後不良と判断されるケースが多いです。

完全骨折に至る前に疲労骨折することが知られていますが、その検出・診断は非常に難しいです。

部位は関節面に近い肩甲骨遠位で、前面が大きく2つに割れてしまうことが多く、これが整復の困難さをより強調するものとなっています。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した目的

  競走馬における肩甲骨骨折の性質と病態について理解を深めること

 

仮説

 競走馬における肩甲骨骨折には一貫した形状があり、これは先行するストレスモデリングやリモデリングに関連している。

 

方法

 剖検にて骨折した肩甲骨と健常な肩甲骨を採取し、視診およびCT検査をおこなった。肩甲骨骨折の形状、骨のモデリング変化、標準的なCTによる形態と骨密度の評価を記録した。統計学的比較は、骨折した肩甲骨、骨折のない対側肢の肩甲骨およびコントロールの肩甲骨との間で行った。

 

結果

 10頭のサラブレッド、10頭のスタンダードブレッドから、39の肩甲骨を得た。12頭の馬で14の肩甲骨に骨折がみられ、全て粉砕骨折をしていた。肩甲骨頚部を横断する完全骨があり、遠位背側面(外側の肩甲上結節から8.9±0.9cmの位置)から伸びていた。13の骨折した肩甲骨で、遠位では大きな2つの骨片に分かれていて、前面は肩甲上結節(頭側関節面から2.8±0.4cm尾側)にまたがっていた。肩甲棘遠位部には骨増生や透亮像が巣状にみられ、これは対側の骨折の肩甲骨にもみられた。しかし、肩甲骨骨折を発症していない馬の肩甲骨ではこの所見は見られなかった(P<0.01)。骨折した肩甲骨では、骨折のない馬の肩甲骨と比較して、骨折線が横断する部位の肩甲棘において、平均骨密度は7-10%低く、密度の不均一性は46-104%高かった(P=0.03)。

結論と臨床的関連性

 サラブレッドとスタンダードブレッドの競走馬では、特徴的な肩甲骨骨折の形状が認められ、これは先行する遠位肩甲棘部の病的な所見と関連していた。この部位は、跛行のあるサラブレッド競走馬でみられる肩甲骨の疲労骨折の部位と一致していた。壊滅的な骨折は急激に現れるが、病態にはより慢性的な過程がある。したがって、早期に検出し救命できる可能性がある。