去勢術後の腸管脱出は、広く開いた鼠径管が腹腔に通じており、そこから小腸を主とした内臓が逸脱することを指します。
これは手術の体位(立位、仰臥、横臥)や手技によらず、術後4時間以内に起きると報告されていますが、最長で12日後に逸脱に気づいたという例もあるようです。
腹腔内の臓器が脱出すると一般的には予後不良ですが、逸脱した腸管を整復し、鼠径管と腹膜を閉鎖再建する手術が可能な場合もあります。
しかし、細いところに嵌った腸管は虚血性損傷を起こしていることが多く、切除吻合が必要になる可能性が高いこと、汚染された腸管を整復することで腹膜炎が避けられないことから、生存できる可能性は低くなってしまいます。
文献の概要
1985-1995年の期間で、カリフォルニア大学デイビス校およびオンタリオ獣医大学の獣医教育病院において去勢術後に腸管脱出をおこした症例を回顧的に調査。
24頭の術後腸管脱出のうち、18頭が治療対象となった。10頭はスタンダードブレッド、5頭はサラブレッド、3頭はその他の種であった。
腸管脱出は、ほとんどが術後12時間以内に発生し、中央値は術後2時間であった。去勢手術の手技は90%で不明だったため検討しなかった。脱出したのは空腸(16頭)、または空腸と近位回腸(2頭)で、長さは中央値2.6mであった。左の鼠径管からは10頭、右の鼠径管からは7頭、不明が1頭であった。
整復の術式は、腹部正中アプローチが8頭、鼠径部アプローチが6頭、腹部正中と鼠径部の併用が4頭であった。術式の選択は経済的な理由があった3頭を除き、特に理由なし。
14頭で腸管の切除と吻合が行われた。3頭は手縫いの端端吻合、7頭はステープルで側側吻合、3頭はステープルで端端吻合であった。腹腔洗浄、鼠径管の閉鎖、術後の抗菌薬と抗炎症薬投与は全ての症例で同様に行い、長期生存との相関は解析せず。
整復術後の合併症は、疝痛(13頭)、イレウス(4頭)、感染性腹膜炎(5頭)、術創感染(1頭)、発熱(1頭)、再脱出(1頭)。鼠径部アプローチでは10頭中9頭、正中アプローチでは8頭中7頭で合併症がみられた。
その後、18頭中11頭で試験的な腹腔鏡が行われ、感染性腹膜炎や癒着が確認された。最終的に癒着により6頭、腹膜炎や疝痛、出血などで5頭が安楽死となった。
短期生存率は72%であったが、鼠径部アプローチでは40%だったのに対し、正中アプローチでは75%であった。全体の長期生存率は44%であった。
術後の生存率を下げる項目は、鼠径部アプローチ、腸管の吻合術を行うこと、損傷した腸管が長いことであった。