育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走用でない馬の中心足根骨骨折の形状と術後長期予後(Gunstら 2016年)

競走以外の目的で使用されている馬にも足根骨骨折が発症することが知られています。

 

今回紹介する文献では、乗用の馬でも、CT画像をもとにした理想的な内固定術を行うことで、跛行なくもとの運動や競技に復帰できることが示されています。

 

足根関節の骨棘や変形性関節症は、足根骨骨折を発症した時点で不可避なものですが、内固定術を行うことによってその程度を軽くすることができると考えられます。乗馬は変形性関節症や骨関節炎で慢性的な疼痛や跛行に苦しむこともありますので、これを少しでも回避することが、その後の馬のキャリアに重要であると考えます。

 

参考文献 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

競走様に用いられていない馬における中心足根骨骨折:CT画像で評価した骨折の形状とラグスクリュー固定による長期的な成績

 

研究を実施した理由

 馬の中心足根骨骨折の形状に関して、断層画像に基づいた報告はこれまでになく、内固定術後の長期的な臨床およびX線検査における成績を報告したものもない。

 

目的

 馬の中心足根骨骨折における、臨床、X線、CT画像の所見を報告すること、内固定術の長期的成績を評価すること。

 

研究デザイン

 回顧的症例集

 

方法

 スイス、チューリッヒ大学にて2009-2013年の期間に中心足根骨骨折と診断した全ての馬を調査した。全症例でCT検査とラグスクリュー法による内固定が実施された。医療記録と診断画像を回顧的に調査した。術後少なくとも1年以上の期間、臨床検査とX線検査による追跡調査を実施した。

 

結果

 中心足根骨骨折は6頭で診断された。5頭は障害飛越競技のウォームブレッドで、1頭はレイニング競技のクォーターホースであった。全ての症例で骨折は背側から始まり底側から底内側方向に広がり、底側または底内側の皮質骨に抜ける矢状盤状骨折であった。全ての症例で中心足根骨の顕著な骨硬化像がみられた。長期間の追跡調査にて、6頭中5頭は歩様に異常なく復帰できたが、遠位足根関節の軽度な骨棘形成は共通してみられた。

 

結論

 非競走馬における中心足根骨の骨折は、はっきりした形態だが、X線検査ではわずかな骨折線しかみえないことがある。慢性的なストレスに関連した病因である可能性がある。これらの骨折は個別に骨折の形態を正確に把握し、それに基づいた内固定術を行うことで非常に良好な予後が得られる。