育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

レポジトリ検査で認められる副手根骨骨片の競走への影響(Davernら2019)

1歳セリで認められる腕節の副手根骨近くにみられる骨軟骨片が、将来の競走パフォーマンスに与える影響について調査した文献があります。

このX線所見は、非常にまれなもので、この文献では8年間のセリで47頭でした。ちなみに、日本の1歳セリのレポジトリ検査では4年間、852頭中2頭のみでした。*1 

骨片のある47頭と、骨片のない94頭の、その後の競走成績を解析しました。調査対象となった馬は全てセリの時点では跛行はありませんでした。

骨片の有無による将来の競走パフォーマンス比較では、出走率、出走回数および獲得賞金には差がないことが示されました。また、骨関節炎は負の影響を与えると考えられていましたが、この調査ではその影響もありませんでした。

よって、この所見が将来の競走パフォーマンスに与える影響には関連しないと結ばれています。

 

 

参考文献 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

目的

  1歳時のレポジトリ検査で副手根骨に骨軟骨片がある馬とない馬のサラブレッド競走馬の2歳、3歳および生涯の競走パフォーマンスを比較すること。

 

デザイン

 回顧的、マッチした集団の研究

 

動物

 1歳セリのレポジトリX線検査で副手根骨の骨軟骨片を確認し、47頭の跛行のないサラブレッド(骨片所見あり)、94頭の跛行のないサラブレッド(骨片所見なし)

 

方法

 大規模なケンタッキーにおけるセプテンバー1歳セリ2005-2012年のレポジトリーX線検査所見を回顧的に調査し、競走成績を回収、解析した。同じセリで副手根骨の骨軟骨片所見がある馬とない馬を選択し、競走パフォーマンスを比較した。

 

結果

 副手根骨骨片の有無により、2歳および3歳時の出走率、2歳、3歳および生涯の出走数、獲得賞金、1走あたり賞金には有意差がなかった。副手根骨の骨片と腕節の骨関節炎の併発の有無による差はなかった。また、過去の報告では副手根骨骨折が単独の場合と比較して、他の腕節の異常が併発している場合ではパフォーマンスが悪いことと関連があるとされていたが、この比較も本研究では有意差がなかった。

 

結論と臨床的関連性

 1歳サラブレッドのレポジトリーX線検査において、副手根骨の骨折と腕節の骨関節炎所見の有無は、骨折所見がない馬と比較して、2歳および3歳時の出走率低下やパフォーマンス減退とは関連がなかった。