育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

立位での手根管腱鞘の診断的腱鞘鏡(Miagkoffら2020)

はじめに

手根管症候群の原因はさまざまで、深屈腱または浅屈腱や支持靱帯、もしくはそのほかの軟部組織損傷が原因となる可能性があります。

equine-reports.work

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調査で分かったこと

腱鞘内の構造は、X線検査や超音波検査だけでは診断することが難しい部分もあります。

その場合には病変部を確定するために診断的な腱鞘鏡手術が行われます。腱鞘鏡手術は、関節鏡手術と同様に、全身麻酔下で行われます。

今回の調査は、全身麻酔に関連するリスクやコストを低減するため、代替法としての立位腱鞘鏡について検討しました。

その結果、特殊な細い腱鞘鏡を用いることで腱鞘内での操作性は良好でした。一方で腱鞘内の遠位構造が十分に観察できなかったこと、腱が緊張状態にあるために腱間が確認できない場合があったことがわかりました。しかしながら診断をつけられる可能性はあり、代替法になりうると結ばれています。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 立位の馬における手根管腱鞘の診断的な細い腱鞘鏡(Needle Arthroscope)が使えるか調査すること。

 

研究デザイン

 実験的研究

 

検体

 解剖体を用いた調査に6つの前肢、生体を用いた調査に6頭の馬

 

方法

 解剖体を用いた調査では、腱鞘鏡内に1.2mm径のNeedle Arthroscope(60mmと100mmの長さ)を用いて、次に4mm径の関節鏡を用いて通常の近位外側アプローチを行った。続いて、6頭の健康な馬に立位鎮静下で片側の手根管腱鞘に65mmのNeedle Arthroscopeを用いた。検査中は、患肢を特製の副木のついた土台に乗せて屈曲した状態を維持した。腱鞘内がどれだけ探査できたか、安全か、馬が許容できたか、合併症について記録した。

 

結果

 標準的な腱鞘鏡と比較して、細い腱鞘鏡では最も遠位の部分が見えなかった。65mmの細い腱鞘鏡の操作は素晴らしく、解剖体と立位の馬(6/6)において近位部は隅々まで見えた。しかし、生きている馬では屈腱が緊張しているため、腱と腱の間の構造は立位の馬で4/6、解剖体で6/6で観察できた。重大な合併症はなかった。

 

結論

 立位での腱鞘鏡は、腱鞘内の近位でほとんどの構造を徹底的に評価することができ、安全で、代替の診断法となる。

 

臨床的関連性

 従来の画像診断で十分な結果が得られない、または治療開始前に正確な診断を必要とする場合には、今回の代替法が役に立つかもしれない。

 

他にも手根管が腫脹する原因の一つに、橈骨尾側の骨軟骨腫(Osteochondroma)や外骨症があります。以下の記事を参照してください。

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